カクヨムロイヤルティプログラムの向こうに見えるもの

カクヨムロイヤルティプログラムの第一弾が、とうとう今月末スタートする見込みらしい。第一弾は、小説公開ページ内に広告を表示することにより、マージンのようなものを作家が受け取ることができうという内容。ネットの世界ではある意味非常にシンプルな仕組みと言えるが、「小説投稿サイトに作品を投稿した作家が収入を得られる」ということは、本の世界では非常に大きな分水嶺になり得ると思っている。

一部ブログ等で小説を公開して収益を得ていた作家さんや、オンラインサロンのような有料サイトで小説を公開していた作家さんはいると思うけれど、そういった方法で収入を得られるのはごくごく一部の作家さんだろうと思う。何より、「お金を出してでもオンラインで小説を読みたい人」と「自分の小説をマネタイズする知識やら技術やらを持っている人」が両者存在した上で、「両者がマッチング」しないといけないわけで、この三つの要素が揃うというこはかなりレアなケースだったことだろう。

カクヨムロイヤルティプログラムは、「小説を書いて誰かに読んでもらいたい人」と、「オンラインで様々な新しい小説を読みたい人」という二つの要素があれば成立する。それは、カクヨムが小説投稿サイトというプラットフォームとしての存在を既に確立しているため、マッチングの場としての機能を十二分に果たすことが明白であるからだ。

これまで小説投稿サイトに投稿する作家さんの主な目的は、「自分の作品を誰かに読んでもらいたい」ということと、「投稿サイトで評価されることによって出版社等から声がかかり、プロ作家としての道を歩めるかもしれない(専業か兼業かは別として)」であっただろうと思うのだが、後者について、もしかすると、「出版社等から声がかかり」という部分がなくても、目的を果たせるようになるかもしれない。すなわち、「インディーズ作家」という存在が確立される可能性があるのである。そして、音楽の世界を見てみれば、メジャーでなくても、インディーズのまま、経済的にも大成功を収めているミュージシャンは当たり前のようにいる。また、重来のテレビ・映画作家兼タレントに対するYouTuber=インディーズ映像作家兼タレントだと考えると、「小説世界のYouTuber」と無理やり例えられなくもない。YouTuberという存在がどれだけ画期的に世界に浸透していったかは、もはや説明の必要もないだろう(ちなみに、個人的には、役割分担がより多様化したチーム・集団のYouTuberというものが今後出てくると思っているので、現在のYouTuberが表現するよりも別のタイプの映像作品も増えてくると思っている)。

YouTuberにしても、特定のプラットフォームに頼っていて(言うまでもなく、YouTuberの場合はYouTubeである)、その特定のプラットフォームにある種の命運を握られている表現者が多いというポイントはあるものの、カクヨムさんの動きは素晴らしいものだと思っている。出版業に携わる人間としてはビジネス的な脅威と言えるのだろうけれど、そういった感情よりも、作家さんにとって新しい時代が来て、出版社が取りこぼしていた才能が日の目を見る可能性がぐんぐん高まっているということに喜びを隠せない。淘汰が起こり得るほどのブレイクスルーは、確実に時代を次のフェイズに進めてくれる。それが結果的に世界にとって幸せなことかどうかは時代と世界が判断することであり、我々はイノベーションを拒否するべきではない。

そのうち「カクヨマー」なんて言葉が一般化する時代が来るかもしれない。あるいは、小説家になろうさんや、アルファポリスさんや、そういった別の小説投稿サイトさんが次の一手を打ってくるか。いずれにしても、本の世界にとっては大変有意義な何かが起きていると思っている。

この記事を書いた人
鈴木 征浩

本とゲームと日本女子ソフトボールリーグとぬいぐるみが好きです。
株式会社opsol book 代表取締役。
出版プロデュースや編集業をやっています。
福祉医療系のお仕事も。

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